児玉龍彦氏が警告する低線量被曝、内部被曝による癌発症の危険性・追補
2011-07-30


2011年7月27日、衆議院厚労委員会に参考人として招致された児玉龍彦東京大学アイソトープ総合センター長は、声を震わせ、ときに絶叫しながら、政府の無策への怒りを爆発させた。わずか16分の中で、彼は多くの重要な指摘をしたが、その中で内部被曝についての部分を抜き出して、少しでも我々素人にも理解できるよう、噛み砕いた表現で要点をまとめてみる。

 私の専門は人間の身体にアイソトープを打ち込んで癌の治療をするというもの。内部被曝に関しては最も力を入れて研究している。
 内部被曝のいちばんの問題は癌を引き起こすこと。DNAの二重らせんが切断されることが引き金になって癌ができる。DNAの二重らせんは細胞分裂をするとき1本になってから2倍になって4本になる。このときが非常に危険。だから、細胞分裂が盛んな胎児、幼児は放射線障害を受けやすい。大人では細胞の増殖が盛んな部位が影響を受けやすい。
 中でもいちばん怖いのはアルファ線の内部被曝である。
 具体例としては、トロトラストというドイツのハイデン社が発売した二酸化トリウムを使ったエックス線造影剤が出すアルファ線が原因で20年後、30年後に癌になる「トロトラスト肝障害」などは、私たち医者は誰もが知っている。
 内部被曝については、何ミリシーベルトという数値で議論するのはまったく意味がない。
 ヨウ素131は甲状腺に集まる。トロトラスト(に含まれていたトリウム)は肝臓に集まる。セシウムは尿管上皮や膀胱に集まる。これらの体内の「集積点」を見なければならない。だから、全身をスキャンするホールボディカウンター検査をいくらやっても意味がない。
 ヒトゲノム計画の完了によって人の遺伝子配列は全部分かっているが、人間の遺伝子配列は個人によって約300万箇所違う。現代の最先端医学では、人間はみな同じとみなして遺伝子異常を研究することはしない。
 放射線によってどの遺伝子がやられて、それがどう変化するかというのを見ていかないといけない。トロトラストのアルファ線障害の場合、P53という癌抑制遺伝子が異常を起こすことが引き金になって、20年から30年後に肝臓癌や白血病が起きることが分かっている。
 同様にヨウ素131は甲状腺に集まるため、甲状腺形成期にある成長期の子供が影響を受けやすい。
 1986年に起きたチェルノブイリ原発事故以後、子供の甲状腺癌が多発していると初めて報告したのはウクライナの学者で1991年のことだったが、それに対して日本やアメリカの学者は「因果関係が証明できない」とネイチャー誌に投稿して否定しようとした。
 1986年以前の正確なデータがないから証明できないという論旨だったが、それから20年経過して、甲状腺癌発症のピークが消えたために、ようやくこれはチェルノブイリと関係があると統計学的に証明された。
 このように、放射線と癌の関係を疫学的に証明することは非常に難しい。長い時間が経過するまで証明はほとんどできない。
 だから、今我々に求められていることは、そんな時間の経過を待つことなく、とにかく子供を守るということ。
 日本バイオアッセイ研究センターの福島昭治先生が、長年、チェルノブイリ事故後、周辺の汚染地域で、主に尿路系(膀胱、尿道など)に蓄積されているものを調べ、発癌の関係を研究していらっしゃる。
 福島先生がウクライナの医師と協力して、前立腺肥大手術のときに500例以上の膀胱サンプルを検査したところ、高濃度汚染地区では、尿中に6ベクレル/リットルという微量のセシウムが検出された。この地域ではP53遺伝子の変異が非常に増えていて、しかも、増殖性の前癌状態(ある組織に癌ができる前に、癌に先立って介在する病変)が起きている。これによって増殖性の膀胱炎が起き、かなりの率で上皮内の癌もできているということが報告されている。

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