フランス人ドキュメンタリー作家アンヌ・ロール・ボネルのこと
2022-04-24


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アンヌ-ロール・ボネルというフランスのドキュメンタリー作家が2015年にドンバス地域に入って記録した作品『ドンバス2016』は、今まで見たウクライナ紛争関連の動画の中でも、最も印象的であり、信頼に足るものだと思った。
まだ見ていない人は、とにかく見てほしい。50分ちょっとは長すぎると言うかもしれないが、YouTubeだといつ削除されてしまうかもしれないし、ぜひ今のうちに。
もちろん、これだけフェイク報道や嘘で操るプロパガンダがあふれているから、この作品も「フェイクではないだろうな?」という目で見た。
細部まで疑いの目で見たのだが、登場する人たちの一種ニュートラルな、というか、何か悟りきったような哀しい目が、淡々と事実だけを告げていると思える。
ああいう目をした人々の映像を、過去に何度も見てきた。例えば原爆投下後の広島、長崎の人たち。アウシュビッツに連れて行かれるユダヤ人たち……。
彼女も、フェイクだと言われることを意識していて、恣意的な編集や演出をしないという方針を貫いている。自分の意見は一切挟まず、現地の住民たちが話す映像と移動のときの風景映像をつないでいるだけ。
中でも印象的なのは犬たちだ。
人間と違って、犬は演技をしない。
映像にはあちこちに犬が映っているのだが、一匹もつながれていない。
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誰もその犬たちをいじめていないし、ひもじくなっても殺して食べようとか、そういうことは考えもしないみたいだ。
犬をコートの中に抱いてインタビューに答えている女性もいた。
犬と人間が自然な関係を持って共生していた地域だということが分かる。
そういう平和な暮らしがあったからこそ、犬たちも、住民たちと一緒に悲しげな姿で、黙って生き抜いているのだろう。

炊き出し給食センターのようなところにいたおばあさんが「今までずっと戦争なんて知らないで生きてきた。平和な暮らしだったのに、人生の最後になってこんなことを経験するなんて」というようなことを淡々と語るシーンも印象深かった。
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ああ、この地域は本当に平和で、穏やかな人たちが暮らしていたんだと思い知らされた。
西欧の資本主義社会から見れば、貧しくて、みすぼらしく、文明的でない暮らしなのかもしれない。しかし、そう感じる人たちよりも、彼らのほうがずっと上品で幸せな暮らしを営んでいたんじゃないだろうか……この馬鹿げた殺戮が起きるまでは。
映像に登場する人たちのほとんどが、自分たちの暮らしをズタズタに破壊する者たちに向けて、敵意よりも諦めのような言葉を淡々と吐き出している。
映画の最後に出てくる、兵士として志願した息子を失った夫婦の姿も深く心に突き刺さった。
妻は淡々と戦争の愚かさ、そして母親の哀しみを語っている。その横で聞いていた夫が、つい「ポロシェンコなんかオバマの尻の穴でも舐めていればいい」と口走ると、「そんな下品な言い方はやめて」と静かにたしなめる。
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間違えてはいけないのは、これは『ドンバス2016』という作品で、6年も前の映像記録だということだ。ロシア軍がこの内戦に介入してきた2020年から現在にかけての映像記録ではない。
ドンバスの人たちを無差別殺戮しつづけてきたのはアメリカとNATOに軍事支援を受けたウクライナ軍なのだ。

それでもまだ、こうした映像がロシア側のプロパガンダだと言い張る人たちが多い。
アンヌ-ロール・ボネルの後ろにはロシアがついていると主張する人たちに対して、彼女は様々な場で「私は政治には関与しない」と言い続けてきた。
例えば、フランスのテレビ番組に出てきたとき

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