朝日新聞に
「中国製か日本製か、誰も分からない」告発者が語る手法 という記事が載った。
ブロニカという時計販売会社が売っている腕時計は100%中国で組み立てているが、それを日本に持ち込んでから裏蓋に made in Japan の刻印を押している……という内容。
しかし、そんなのとっくの昔からどんな業界でもやっていることで、何を今さら……と思う。
中国の鰻を日本に輸入して、ちょっとだけ生け簀に放してから加工し、「日本産」として出荷するとか、そういうのはみんながすでに知っていること。
家電製品や衣料品なども、今やメーカーの本部がどこにあるかとかは関係なくて、工場は中国や東南アジアにある。もっとも、それらは正しく made in China や made in Malaysia などと記されている。だから、この腕時計の場合、正しく made in China と刻印するべきではないかということだと思うが、腕時計に「日本製」を要求するセンスがすでにずれている。正確な時刻を知りたければ、スマホがいつでも教えてくれる。腕時計はもはや時刻を知る道具ではなく、アクセサリーのカテゴリーに入るだろう。センスのよいデザインであっても made in China ならアクセサリーとしての価値が下がるというのであれば、それはもう裸の王様の世界というか、特殊な趣味の世界ということで、放っておけばいいのではないか。ブロニカの腕時計が made in Japan か made in China かなんて、ほとんどの人にとってはどうでもいいことだ。
そもそも「日本製」の信用度、made in Japan のブランド力って、今でもあるのだろうか。
「日本製」にわざわざドイツのブランド名を被せる
この腕時計の事例とは逆に、日本製なのにわざわざ海外ブランドを冠して商品価値を高めようとする例もある。
カメラのレンズなどはその典型で、日本製であっても、わざわざドイツに本部がある企業にライセンス料を支払って「ライカ」や「カールツァイス」というブランドを冠している。作っているのはコシナ、シグマ、タムロンなどの日本メーカーなのに、わざわざさらに金を払ってドイツのブランドを冠したほうが高級品のイメージが作れるということなのだろう。
日本のカメラメーカー・ヤシカはカール・ツァイスとブランドライセンス契約を結び、ヤシカが製造する高級機にカール・ツァイスのレンズ、カメラ本体にはコンタックスのブランドを使った。
そのヤシカが後に京セラに吸収されたため、京セラも引き続きコンタックスというブランド名を使っていた。
京セラがデジタルカメラ事業から撤退する寸前に、Finecam SL300R、Finecam SL400Rという、ボディが2つに分かれて回転し、レンズ部分の深さとボディの薄さを両立させる「スイバル」タイプと呼ばれるコンパクトデジタルカメラを発売したことがあった。このSL300R/400Rには、ほぼ同じ設計・仕様でコンタックスブランドのCONTAX SL300RT/400RTという革シボをあしらったお洒落な製品があって、価格は京セラブランドのFinecamの2倍くらいした。
スイバルタイプのコンパクトカメラは好きだったので、欲しかった1台だ。性能的には限りなく同じだと分かっていても、「CONTAX」のロゴとお洒落なデザインは確かに魅力的だったのを覚えている。これがまさに「ブランド」の力だろう。
デジタルカメラといえば、コンパクトデジカメの生産においてサンヨーのシェアが圧倒的だった時期がある(そもそも「デジカメ」はサンヨーの登録商標)。しかし、サンヨーが生産シェア世界一を誇っていた時期、そのほとんどは他社へのOEM供給だった。「サンヨー」のカメラでは売れないが、オリンパスやニコンのブランドをつけると売れる。
そのサンヨーもその後は消えていき、今では
コンパクトデジカメというジャンルそのものが消えてしまいそうな状況にある。
「ブランドイメージ」の難しさ